Interviewee
小池 敦2003年に東北大学大学院情報科学研究科博士課程前期2年の課程を修了後,日立製作所コンシューマエレクトロニクス研究所,ナビタイムジャパンにて携帯電話やカーナビの研究開発に従事.2015年に総合研究大学院大学にて博士(情報学)を取得.その後は東北大学大学院情報科学研究科助教,一関工業高専専門学校准教授などを経て,現在,東北大学大学院情報科学研究科実践的情報教育推進室特任准教授(研究)として,深層学習を含む機械学習・データサイエンス,組合せ最適化,組み込みシステム等の教育研究に従事している.特に深層学習技術の様々な分野への応用や説明可能AI について興味を持っている.
豊富な図と数式で、深層学習を直感的に理解できると発売前から全国の先生方より献本依頼をいただいている『図解 深層学習』。
著者の 小池 敦 先生に著書の特徴や教科書の使い方のポイントなどをお伺いしました。
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Q. どのようなことを意識して『図解 深層学習』(以下:本書)をご執筆されましたか。
小池ー
深層学習の仕組みを直感的に理解できることを目指して執筆しました。
仕組みを説明する方法として、関連する重要なキーワードについて解説していくというやり方も考えられますが、本書ではキーワードに頼りすぎず、深層学習の挙動を直感的にイメージできるようになることを目指して説明を行いました。そのために必要となる数学についても図を多用して丁寧に説明しました。
例えば、ニューラルネットワークの学習で使われる誤差逆伝播法については、天下り的に式を与えるのではなく、多変数関数の連鎖律を線形変換を使って理解することで、この方法の正当性や効率の良さを直感的に理解できるような説明を行っています。
Q. 教科書として使いやすいように工夫した点を教えてください。
小池ー
本書全体を通じて、文章のみによる説明が少なくなるようにし、図と文章をセットにして説明するように心がけました。
内容について、仕組みを理解しようとすると数学が必要となりますが、数学についても他の専門的な数学書よりも分かりやすくなることを目指して天下り的な説明をしないように気をつけながら執筆しました。4年生以上の高専生や一般教養を終えた大学生が他の数学書を参照することなく本書のみで学習できるようになることを目指しました。
また、大規模言語モデルについては今後ますます重要度が増していくと考えており、大規模言語モデルの仕組みについて非常に丁寧な説明を行いました。それにより、大規模言語モデルの中で行なっている処理について、それぞれの意味を理解できるようになっていると思います。
Q. 教える立場での本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
小池ー
多くの箇所で図と文章がセットになっていますので、図をベースにして説明を行うことができると思います。
また、講義時間数やスピードに応じて、内容量を調整することができます。「第I部 基礎事項と関連する数学」については、受講者のレベルに応じて適宜スキップすることもできます。また、深層学習自体について学ぶことを目的とする場合、「第III部 ハイパーパラメータの最適化」は省略可能です。
Q. 自習など自学で使うときの本書の使い方のポイントなどがあれば教えてください。
小池ー
ひとつひとつの図の意味をしっかり理解しながら読んでいくことをおすすめします。本書は扱っている項目は多くないですが、ひとつひとつの項目についてじっくり考えながら読んでもらうことを想定して執筆しています。それにより、深層学習の原理について深い理解が得られるはずです。
Q. インタビューをお読みいただいた皆様へメッセージをお願いします。
小池ー
深層学習の原理をきちんと理解したいという方にぜひ読んでいただけたらと思っています。
初めて深層学習を勉強する方にも、既に学習済みでより深く理解したいと考えている方にもおすすめです。初学者の方は、最初に本書で勉強することで直感的なイメージができあがり、他の本を読みやすくなると思います。他書で学習済みの方も、天下り的な説明に納得できていない項目をお持ちの方はぜひ本書をのぞいてみていただければと思います。
例えば、「画像に対して畳み込み処理を用いることで画像パターンの認識ができるということついて直感的な理解を得たい方」、「セルフアテンションやクロスアテンションの式の意味を理解したい方」、「Transformerモデルで使われている位置エンコーディングの(一見)意味不明な式に戸惑っている方」はぜひ本書を読んでみてください。
また、数学的な内容に関して、「半正定値行列がどのような行列かをイメージできるようになりたい方」、「多次元正規分布の形が共分散行列によりどのように定まるかをイメージできるようになりたい方」も本書を読んでみていただければと思います。
【株式会社 近代科学社】
株式会社近代科学社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:大塚浩昭)は、1959年創立。
数学・数理科学・情報科学・情報工学を基軸とする学術専門書や、理工学系の大学向け教科書等、理工学専門分野を広くカバーする出版事業を展開しています。自然科学の基礎的な知識に留まらず、その高度な活用が要求される現代のニーズに応えるべく、古典から最新の学際分野まで幅広く扱っています。また、主要学会・協会や著名研究機関と連携し、世界標準となる学問レベルを追求しています。